2013年7月19日金曜日

Café Daval

Parisのことは深く知らない私だが、ParisはNYよりもどこよりも「音」「色」「香り」 に独特の印象がある街...ということは知っている。

3年前の夏、そんなParisに2週間滞在した。
いつも休暇がとれると無条件にNYへ出向いていたのだが、何か自分の中の流れを変えたかったのだろう... その年はParisを選んだ。

滞在したOperaエリアは、オペラ座にもルーブルにも歩いてゆけるアカデミックな場所で、オノボリサンな私が素敵なParis滞在をエンジョイするにはベストなロケーションだった。
NYほど勝手がきかない街なので、チェックポイントを丹念に調べたメモをポケットに忍ばせて、毎日毎日Parisを歩いた。

滞在中、オペラ座バレエが「竹取物語」を上演しているというのでその珍しさにチケットを購入すると、上演劇場がオペラ座ガルニエ宮ではなく、バスティーユにある新オペラ座と表記されていた。
私はちょっと嬉しくなった...なぜならば、ポケットのメモにある《バスティーユ駅から徒歩10分のカフェ》とセットで動けるからだ。

Operaから地下鉄で30分、もはや私の頭の中はバレエよりも"駅から10分のカフェ"のことで一杯だった。実はこのカフェ、BROWN'S「A」が《Parisの良さそうなカフェ》として渡欧前に情報をくれた店だった。
バスティーユは、地下鉄から上がるとすぐにフランス7月革命を記念して創られた美しい塔が目に入る。ポケットからメモを取り出し、地図と照らし合わせながら "駅から10分のカフェ" を目指した。バスティーユ駅から伸びる小道には素敵なパブや可愛いコンフィズリーの店が軒を並べ、ここはParisの中でも割と好きなエリアかもしれない...と思った。
本当に10分歩いてたどり着いた瀟洒なパサージュに、目的の店【Café Daval】があった。赤茶色で縁取られた、可愛らしくも老舗の風格を備えた店構えは、期待を裏切らないことを約束してくれるような空気を醸し出していた。店の前でプリントワンピースを着た可愛い初老の女性が水撒きをしていて...このマダムが Café Daval のオーナーだった。私が早速「先週日本から来て、このカフェにきたくて、、それでそれでコーヒー豆も買いたくて...」と一気に話すと、どうやら英語があまり得意でないマダムがカタコト英語で「まぁまぁ、豆を買う前にまずここに座ってコーヒー飲んで。どんなコーヒーがすきなの?」と聞いてきた。「フランスらしい美味しいコーヒーで酸味の少ないものを」と話すと、なんとなく理解してくれたマダムが店内に戻り、期待通りのコーヒーを淹れてきてくれた。暫くそのコーヒーをいただきながら、私とマダムは英語と仏語で、お互いがわかる単語を拾い紡ぎながら会話をした。どうやらマダムは旦那様に先立たれ、今は1人で店を切り盛りしているのだという。毎日店を開け、豆を焙煎し、ゲストに好みのコーヒーを淹れて、コーヒーを袋に詰める...すべてご主人の仕事を50年横で見てきた通りにしているだけだというが、豆の話からコーヒーの淹れ方まで、それはもう完璧なものだった。ご主人の軌跡を大切に守り引き継いで豆の選別・焙煎されるマダムのコーヒーは、何にも例え難い貴重で可愛らしい味がした。購入する豆を選びながら "私もコーヒー屋さんになりたいんです" と話して名刺を渡すと「まぁ!ではまたいつか会いましょうね」と微笑みながら、レジ脇の壁に私の名刺をテープで貼ってくれた。

Parisには、DEUX MAGOTS や Café de Flore に代表されるようなゴージャスで素敵なカフェがたくさんあるけれど、私にとって【Café Daval】は、音・色・香り+マダムの笑顔がいまでも鮮明に蘇る、特別 & 格別な "コーヒー屋さん" として、どうしたってずっと忘れられない。✏t